「新製品開発ポートフォリオに潜む可能性」
制御不能なリスクと制御可能なリスクの仕分け

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事業ポートフォリオ、各種製品カテゴリーポートフォリオ等を適正化するケイパビリティは、DX含め、企業・事業変革の前提になります。そのために必要な考え方を、OXYGY日本事務所のアーサー・“ウッド“・バスティアンがまとめました。英語版記事はこちら。また、ダウンロード用リンクはこちら


大きな混乱と不確実性の時代にあって、日本のリーダーは、企業の基盤と文化を強固なものにすると同時に、無数の新たなチャンスを大胆に追求していかなければなりません。成功とは、強力な組織基盤、事業基盤からのイノベーション、明確な意思決定、実行を意味します。

この記事では、最近の調査に基づき、今日の日本の経営者の戦略的優先事項を明らかにした上で、日本のリーダーが新製品開発ポートフォリオを強化するために、「制御不可能」なリスクと「制御可能」なリスクを区別し、予測不可能でありながらも有望な未来を受け入れるために俊敏な組織を構築する方法を概説します。

2021年1月25日

新製品開発ポートフォリオに潜む可能性:
制御不能なリスクと制御可能なリスクの仕分け

これまで以上に困難を極めている新製品開発のマネジメント
飛躍的な技術進歩、製品ライフサイクルの短縮、常に変化する国際的法規制への対応、加速する異業種からの参入による新しい競争など、そうでなくとも、すでに多様な経営課題を持つ経営者に、自社のリソースを新製品開発にどのように配分するのが最善かという課題を突きつけている。

経営者にとってより喫緊の課題は、こうした状況下でこそ、継続的でスピーディーなビジネスモデル変革を実現し、勝ちにつながるソリューションとハイポテンシャルなパートナーを見つけることにある。

VUCA(volatility (変動性) , uncertainty (不確実性) , complexity (複雑性) , ambiguity(曖昧性))は、今日、ほぼすべての経営者の頭に浮かぶビジネス用語だ。当社では最近、VUCAの中で大きな環境変化に直面した、日本を代表する企業の経営者20名を対象に、長期的な成功のために最も重視するリーダーシップ能力とは何かについて調査を行った。これらの企業は、ヘルスケアから機能材料、ITシステムまで、様々な事業を行っている。
12の戦略的な調査項目の内、他の選択肢に明確な差をつけて将来の経営者候補として必要とされているリーダーが取り組むことが必要とされている能力のトップ4として触れられたのは以下の内容であった。

      1. 不確実性の下でのアジリティとマネジメント
      2. イノベーションと新規事業開発
      3. 組織と多様性(ダイバーシティー)のマネジメント
      4. 市場と事業環境の熟知

この4つから汲み取れる、将来のリーダーシップに必要な優先事項は、「持続可能な新規事業を追求するためのアジャイルな組織の育成」とまとめることができるだろう。

興味深いことに、これらの経営者の中で、次に優先順位が高かったのは下記である。

  5. 戦略とポートフォリオマネジメント

この記事で取り上げるテーマは、今日のビジネスエコシステムでは、ゲームチェンジャーというものではなく、むしろ非常に基本的なリーダーシップ能力の重要性についてである。すなわち、この記事では、経営戦略上の上位の優先事項の実現を可能とするための、戦略とポートフォリオマネジメント、とりわけリスクマネジメントをどのように改善できるかを概説する。
リスクについては、まず大きく「制御不能リスク」と「制御可能リスク」の2つに分けて特徴を明らかにしてゆく。特に「制御可能リスク」については、その構成要素を掘り下げて、企業が影響を受けるかもしれないリスクについて、どうやってコントロールできるか、その方向性を示していく。

制御不能リスクへの対応
すべての戦略や新製品開発プログラムでは、常に内在しているリスクが増大し続けている。その中でも最も高いリスクとは、積極的な行動をほとんど取らない、あるいは全く取らないというリスクである。すべての開発プログラムにおいて、プログラムの評価、支援、ポートフォリオ全体の最適化のために、これらの「制御不能」リスクをまず推定し、把握することは可能であり、またそうしなければならない。

リスクレベルの測定方法はいくつかあるが、私たちの経験から、マトリックス・アプローチが最も実用的な方法だ。この方法では、プログラム全体のリスク要因を特定するために、それぞれの開発活動ごとに企業が直面する、技術リスクのレベルと商業化リスクのレベルをマッピングしていく。以下の図1の単純化された例では、マトリックスの中の数字が、こうして推定したリスクを反映しており、表された数字を成功確率(POS)として示している。

図1:成功確率(POS)評価の例

リスクを網羅的に分析するには、以下のように商業的要因と技術的要因を考慮することが有効であり、必要である。

商業リスク:市場ニーズ(アンメットニーズ含む)、顧客基盤、顧客の購買行動、流通・販売ネットワーク、競争力、規制・政治・社会環境など
技術リスク:技術ギャップ、プログラムの複雑さ、開発期間とコスト、プラットフォームの整合性、基本的な技術スキル、生産/品質能力、パートナー/アライアンスのサポートなど

これらは各企業で最適な項目を考える上での一例であり、各企業は自社のビジネスに最も適合している要因と指標値を議論し、自社にとって最適なものを特定する必要がある。

これらのリスクやPOSの測定を活用することで、企業はより適切に財務予測を調整し、それに応じてポートフォリオ(=資源配分)の優先順位を決めることができる。

制御可能なリスクのコントロール
新製品開発プログラムのポートフォリオマネジメントでは、企業はしばしばリスクにさらされることになるが、そのリスクの大部分は実は自社で回避することが可能だ。これらのリスクの中には、迅速に対処できるものもあれば、考え方やビジネス手法を根本的に変える必要があり、実施が困難なものもある。
当社では、数多くの製品開発やポートフォリオマネジメントプログラムの経験と、課題解決のための全体的な視点に基づき、制御可能なリスクを以下の3つの要素に分けた。

1.戦略的ガバナンスリスク( 戦略的‟バケツ化”、意思決定 )

戦略的バケツという考え方を用いて、対象となるプログラムの属性(バケツ)を明確にすることで、ポートフォリオマネジメントを通じた戦略を正確に実行し、相対的な優先順位を個別に設定することが可能になる。
このようにプログラムの属性を構造化して仕分けしなければ、企業は時にワンパターンのアプローチでポートフォリオを管理し、そうでなければ、その場その場の基準で各プログラムを管理することになる。どちらも、多様なプログラムのパイプラインを管理する上で良い方法とは言えない。

製品・プラットフォームの種類、市場・地域、開発フェーズなど、バケツの構成要素を考える切り口は無数にある。今回は、C・クリステンセン教授の提唱した「イノベーションへの解」に例示されているものを紹介する(図2参照)。

図2:意図的戦略に沿ったポートフォリオのセグメント化
(参照元: C・クリステンセン「イノベーションへの解」)

このようにポートフォリオを構造化=セグメント化することで、目的が明確になり、プログラムの優先順位付け、資金調達、人員配置、管理方法を最適化することができる。さらに、外部ベンチャーやスカンクワークス型のアプローチとは違い、同じポートフォリオ内で創発的戦略を実施することで、意図的戦略と創発的戦略の両戦略から生み出される価値を企業文化に定着させ、オペレーションの俊敏性を構築することが可能になる。

意思決定 : 高品質の製品開発の意思決定のために、組織横断的に経営陣が定期的に招集され、明確なGo/No Goの意思決定を行い、ガイダンスを提供し、その上で必要に応じてポートフォリオ全体のリソースの再配分をする。その際は達成要件のレビューを必要なタイミング(ゲート)毎に規律を持って行い、個々のプログラムを評価する。
ここでカギとなるリスクは、パイプラインの中で停滞している将来性の低いプログラムを「止めないで放置しておく」ことである。こうしたプログラムは企業から貴重なリソースとマインドシェアを奪い取っていく。将来性の高いプログラムを特定して立ち上げた後に、経営陣が取る最も価値ある行動は、上手くいく見込みの少ないプログラムを止めることだ。特に創発的戦略プログラムを執っている部分では、企業は「早く失敗してまた始める」という文化的なマインドセットを持たなければならない。このようなプログラムを成功させるためには、うまく行っていないプロジェクトを止めて、この文化に適合してより優先順位の高いプログラムにリソースを振り分けて前に進むということに慣れなければならない。貴重な実践的な経験として、組織的な学習と考えることを勧める。

2.リソース能力リスク ( 専門知識の開発、リソースの展開 )

専門知識の開発:組織は人財育成の成功のための戦略とプログラムを支えるために、必要とされる機能的な専門知識の明確なビジョンを持っていなければならない。図2で見ることができるように、創発的戦略を適応しているプログラムに必要とされるコンピテンシーは、持続的なイノベーションとは全く異なっている。リソース要件の動的な変化を認識し、対応しなければ、プログラムの成功を危うくすることになる。

リソースの展開:さらによくあるのは、質の高いリソースをポートフォリオ全体に分散させてしまうリスクである。これはどのような機能でも起こりうることではある。例えば、新製品開発では、市場や顧客自身の更に先にあるものを見通し、惹きつけるように顧客を呼び込んでくるインバウンド戦略的マーケティングの専門知識が不足していることが、よく見受けられる。こうした状態のとき企業は、成功のために必要とされる専門知識を持った従業員を、しっかり割り当てることができるプログラムの数だけに、ポートフォリオを限定する必要がある。

3.プログラムとポートフォリオマネジメントのリスク( 事業計画、予測、パイプラインの可視性 )

事業計画 : 十分な従業員を割り当てたプログラムであっても、主要な機能間にありがちなサイロによる影響に悩まされることがよくある。メンバーたちがオーナーシップを持ち、機能間でのコラボレーションを可能にする組織横断的なコアチームがなければ、プログラムは組織のシナジーを引き出す事はできず、事業計画の達成を危うくする。

予測 : プログラムおよびプログラム間で評価に用いる財務モデルは、測定されたリスクに対するポートフォリオの潜在的な価値を、一貫性のある論理的評価方法によって提供すべきである。様々なプログラムを正確に評価し、優先順位をつけられるような一貫性を持たないアプローチは、予測をする上での大きなリスクだ。そして、もう一つのリスクは文化だ。日本では、プロジェクトの停止は「失敗」を意味するため、停止・中止したほうが良いプログラムが、なぜか継続的にその潜在的価値を膨らませ、止まることなく、何年もゾンビ状態で継続する傾向がある。

パイプラインの可視性 : プログラムのゲートレビュー毎にポートフォリオとリソースについての意思決定を年に一回以上行う必要がある。そのためには質のよいデータがタイムリーに報告され、集約されるようにしなくてはならない。このような透明性がない場合、リアルタイムで新規プロジェクトを停止したり開始したりする企業の機敏性が阻害され、年次予算編成サイクル以外の場面ではポートフォリオに関する意思決定が停滞してしまう。

結論
企業経営者は、機会のパイプラインを管理する上で、内在するリスクや制御できないリスクに直面している。しかし残念ながら、多くの企業は、新製品開発オペレーションの中で制御可能なリスクに対処しないという自らの意思により、その何倍ものリスクにさらされている。こうした状況を改善するために、短期的にはいくつかの項目についての独立した対処を行うことはできる。しかし、課題の多くは相互に作用しており、組織は全体的な視点からの改善を実施するために時間をかける必要がある。

著者について
アーサー・”ウッド”・バスティアンは、約30年日本で仕事に携わっているアメリカ人コンサルタントです。物理学の学位とMBAを取得し、産業界とコンサルティングの両方で経験を積んできました。技術とビジネスのギャップを埋め、異文化間の協力的なチームを構築し、国際的な環境で問題を解決することで、リーダーシップチームが世界とより良い関係を築けるように支援することに注力しています。経営者や次期リーダーと連携し、組織や個人の目標達成を支援するためのプログラムを企画・運営しています。

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